妖精譚

基本気まぐれ不定期でラノベなどの名言pickや解説、感想を投稿します

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 9巻 【重要文&名言集】

 

目次

 

 

 

1章(異形の少女)

間違ってもモンスターを保護しているとバレてはいけない。地上に戻った冒険者達が酒盛りに耽る後を狙って帰還した方が賢明。リリは参謀役の立場からそう助言してくれた。

 我儘を聞いて、その上で尽力してくれるサポーターに頭が上がらない気持ちで一杯になる。

「リリ、ごめん・・・ありがとう」

「・・・もういいですっ。ええっ、そうですともっ。どんなに無茶苦茶なことを言われたって、リリだってベル様を見捨てることなどできないのですからっ」

 どこか拗ねた口調で、リリは赤くなりながらそっぽを向く。

 申し訳ないと思いながらも、嬉しい気持ちの方が勝ってしまった。

 

 

2章(竜娘のいる日常)

ベルが連れて帰ると言った時、お前だって納得した筈だろう。今更蒸し返すのか?」

「納得は、していません。諦めただけです。・・・ベル様は、底抜けのお人好しですから」

「もし、彼女の存在がこの   【ファミリア】に危険をもたらすとしたら・・・その時は」

「あいつを放り出して、見捨てるって言うのか?」

「・・・必要なら」

 団員の誰よりも派閥の行く末を懸念し、憎まれ役も厭わない少女に、言ってやった。

「一度鏡を見てこい。ちっとも納得してなさそうなかおをしているぞ」

「・・・」

「情にほだされてはいけません・・・誰もがあの娘に心を許してしまったら、きっと、見誤る時がきます」 

「・・・」

「このままで、いられるわけがないんです。今日のように、ずっと笑いあっていられるなんて・・・」 

 少女は『怪物』なのだから。 

 

 

 

3章(世界と現実と怪物)

・・・潔癖なエルフは、ドワーフと同じくらいか、もしかしたらそれ以上に、性に奔放なアマゾネスと相性が悪いのかもしれない。

「シル、すいません。半休を取ります。ミア母さんに伝えておいてください」 

「リュ、リュー?」

「彼女は危険だ、野放しにはしておけない。クラネルさんの操を守るため、クエストの間、私が同行し見張っておきます。夜の営業には必ず戻りますので」

 み、操・・・?

 リューさん、本気でアイシャさんの魔の手から僕を守ろうとしている・・・。

 生真面目過ぎる性格故か、冗談抜きで義勇心に駆られているようだ。

 

 

 

4章(MISSiON)

 歓楽街強襲及び大派閥(イシュタル・ファミリア)消滅の一件により、   【フレイヤ・ファミリア】はギルドからペナルティを与えられている。まだしばらくは彼の組織の従僕を務めなければならない。

 別に逆らってもいいのだが、都市を運営するギルドの顔を立たせる必要はある。今でさえ自分を妬む女神達の声はうるさいし、ロキのところに泣きつかれても厄介だ。

 フレイヤは誰にも縛られるつもりはないが、イシュタルのように傲慢な王になるつもりもなかった。

「また使われるかもしれないけど、その時はよろしくね」

「かしこまりました」

 実際に労する羽目になる眷属へほんのちょっぴりの謝意を込めながら、女神は笑いかける。

 

 

 

 この人が探りを入れる筈がない。僕の反応を伺っているなんて。

 エイナさんは職員の一人、ギルドの中でも末端だ。

 さっきも言っていたじゃないか、何も知る権利はないって。

 今まで力を貸してくれたこの人に、変な勘繰りを向けるなっ。

「__ねぇ、ベル君。相談してよ」 

「!」

「悩みがあるなら、困ってることがあるなら話して?誰にも言わない、約束する。私は苦しそうにしている今のキミに、気付かない振りなんかしたくない」

「私は、ギルド職員失格って言われても。冒険者達(キミ達)の力になりたいから」

「私には、これしか・・・キミの話を聞いてあげることしかできない。だから__」

 __私を信じて。

 エイナさんの懇願に、心が乱れる。

 この人は、何も知らない。

 でももし今、全てを吐き出してしまったら、優しさに甘えてしまったなら、この人もきっと巻き添えを食らう。何も先が見えない暗い海底に引きずり込んでしまう。

 この人を、巻き込むわけには__。

「__大丈夫、です。・・・気にしないで、ください」 

 エイナさんの体から力が抜けるのがわかった。とても、悲しそうな表情を浮かべる。

 

 

 

「ごめん、みんな・・・こんなことになって、巻き込んで」

 ウィーネを助けなければ良かったなんて思うわけにはいかない。思っちゃいけない。今だって秘めている、あの娘を守りたいというこの気持ちに嘘はない。

 だけど、   【ファミリア】の構成員として、団長として謝っておかなくてはいけなかった。

 こうして派閥に迷惑をかけて、ともすればリリの警告通り窮地に追いやって。

 みんなに負担を強いることになってしまった。

 団長失格だ。

 「ベル様」

 「お願いします。ウィーネ様を助けたことを、どうか後悔しないでください」 

「私は、貴方様と命様に助けられて__皆様のおかげで、今、幸せです。ウィーネ様もきっとそうでございます。私達は救われました、だからっ・・・」

  例え苦境に陥ったとしても、今を否定しないでほしいと、そう切願してくる。

「まぁ、謝るなってことだ」

「 【ファミリア】って、こういうもんだろ?支え合うんだ」

 王国(ラキア)の戦争で、散々お前やヘスティア様に迷惑をかけたのを忘れたのか?と。

「もっと迷惑をかけろ。俺の立つ瀬がない」

「ヴェルフ・・・」

「自分達は、一蓮托生です」

「どこまでもお付き合いしますよ。リリは、ベル様のサポーターですから」

 眷属(ファミリア)の仲間は笑ってくれていた。

「・・・ありがとう」

 僕はもう謝らずに。

 みんなに、感謝を告げた。

「・・・」

 眷属達のやり取りを一歩外から眺めていたヘスティアは、深まっている彼等の絆に笑みを漏らした。

 

 

5章(異端児)

最後にものを言うのは冒険者達の自力、人の力だ。

 武器や道具はあくまで僕達に力を貸してくれるに過ぎない。本当の窮地を切り抜けるのに必要なのな各々の能力と機転、そして連携だ。

 過酷なダンジョンの中ではパーティとしての真価が試される。

 何が起こるかわからないけど・・・頼るものを間違えてはいけない。

 

 

 

ウラノス、どうしてわざわざボク達に依頼を出したんだい?ウィーネ君を無理矢理奪うなりして、連れていく方法はあったんじゃないのか?どうしてボク達に『異端児(ゼノス)』とやらの存在を教えてしまう真似を?」 

「人語を話すモンスターをベル・クラネル達が知ってしまったことも含め、理由は複数ある。だが、一番の要因は・・・」

ヘスティアの眷族が一筋の、例え僅かにも過ぎない可能性であったとしても・・・希望に成りえるとそう判断したからだ」

「希望?」

「人類と怪物(モンスター)、共存の道への架け橋だ」

 

 

 

 モンスターは人類の敵。人類はモンスターを殺し、モンスターは人類を殺す。互いに圧倒的な嫌悪と忌避感を抱き合う人と『怪物』は決して相容れない。

 下界の住人とモンスターが殺し合うのは運命だ。

『古代』、モンスター達が『大穴』より溢れ出てきた時より決定づけられた、宿命だ。

 彼等には果てなき闘争が定められている。

 その不変の真理を覆そうとする神意__ギルドの主として到底看過できない発言に、ヘスティアは相貌に険しさを浮かべる。

「だが、彼等『異端児(ゼノス)』は本能のまま襲いかかるのではなく、人との対話を望んでいる」

「!!」 

「その爪と牙ではなく、言葉と理性をもって訴えかけているのだ。地上に出たいと。子供達を・・・人間達を知りたいと」

「理性を宿している『異端児(ゼノス)』は通常のモンスターにさえ襲われる。疎外と排斥だ。彼等の居場所は地上にも、迷宮にも存在しない」

「・・・」 

「聞く耳を持たず、モンスターであるからこそ葬り去るという選択は容易だ。しかし彼等は意思を備え、それを伝える術を持っている。我々の子と同じように」 

「ダンジョンに『祈禱』を捧げる存在として・・・彼等の慟哭を受け付けず、滅ぼすことは、もはや私にはできそうにない」

 

 

 

 自分もウィーネを知ってしまった。

 果たして今、自分はあの竜の少女を切り捨てることができるのか。

 眷族達のために、悪逆と欺瞞の女神になることが本当にできるのか。

 ヘスティアは懊悩と選択肢の渦に囚われ、しばし無言を貫いた後、顔を上げてウラノスに再度問いかけた。

 「本気で、子供達とモンスターの融和を図る気かい?」

「神意は定まっている。だが無理難題だ。持てあましている、というのが実情に違いない」 

「子供達との共存を目指すのであれば、我々は怪物(かれら)の存在意義を問いたださなければならない」

__『怪物』は存在意義を証明しなければならない。

 『怪物』は生まれながらにして、正常から逸脱した特異な容貌という負の烙印が押される。

 威嚇的な体軀、血を象徴する爪牙、死を招く炎、獣性を帯びた声。

蹂躙と殺戮の記号で塗り固められた彼等がそれら負の烙印を覆し、下界の住人と融和するには自身の有用性を示すしか他にない。地上の光を浴びるには、人類の潜在的嫌悪と恐怖を超克する存在意義の証明が不可欠だ。

 「・・つまり、その存在意義の証明とやらに、ベル君達という媒介(かけはし)に可能性を見出したって?」

「その通りだ」

 ウラノスの言い分はわかった。ウィーネを知る自分としても叶うなら慈愛を恵んでやりたい。

 だが、その道にはベル達の破滅が常に両隣に存在している。

 ウラノス自身が先程発言した疎外と排斥候だ。『怪物』に加担したことが公になればベル達はこのオラリオから、あるいは世界から居場所を失うだろう。『異端児(ゼノス)』と同じように。

 とてもではないが、天秤を傾ける真似はしたくない。

 それがただの逃避だったとしても、とヘスティアはそう思う。

 

 

 

「・・夢を見るんだ」

「真っ赤な光が、でけえ岩の塊の奥に沈んでいく夢・・・迷宮(ここ)にはない空が、赤く、泣いちまうくらい赤く、だんだんと染まっていく綺麗な時間・・・」  

「それって・・・夕焼け、ですか?」

「そうかもしれねえ」 

「でも、夢って・・リドさんは、地上に出たことがあるんですか?」

「1度もねえ。だから、オレっちはひょっとしたら、前に生きてた時はこの暗い奈落(ばしょ)から飛び出して、地上にいたのかもしれねえ」   

「前に、生きてたって・・・」

「おい、まさか・・・」

「前世・・・?」

「なあ、ベルっち。ウィーネのやつ、話すの上手いよな」

「え・・・あ、は、はい」

「ここには人語を喋れるやつもいれば、喋れないやつもいる、言葉遣いが上手けりゃ下手なやつもいる。不思議だろ?」

「でもよ、喋れるやつは本当にすぐ喋れちまうんだ。それこそ、まるで知ってたことを思い出すみたいに」

「!」

「あいつ等は前に、人のことをよーく見てたんじゃねえかな・・・羨ましがったり、憧れたり」 

__たくさんのひとたちが、ベルみたいに・・・わたしから、だれかを守っていて。

 __そのひとたちをみて、体がさむくなっていくの。  

__あのひとたちがすごく綺麗にみえた。

数日前、狭いベットの中で、少女が囁いていた夢の内容をベルは鮮明に思い出す。

 それと同時に、まさか、という思いを強めた。

 ウィーネ達は、本当に__。

「__『強烈な憧憬』」 

 そこでフェルズが声を発するり

「異端児(かれら)が胸に秘める想いはばらばらだ。だが共通しているものがある。それは人類、あるいは地上に対する『強烈な憧れ』だ」

 地上、ひいては太陽と空の下に君臨する人類への羨望と憧れを、『異端児(ゼノス)』は夢を通して覚えている。

 強烈な殺意と敵意が渾然とする中で見た、眩しい憧憬。

 必死に互いを助け合うヒューマン、満身創痍でありながらなお立ちはだかる勇猛なドワーフ、死に際であっても最後まで誇り高く在ったエルフ。あるいは情けをかけられ、救われてしまう自分達(モンスター)。もしくは夕日や青空を始めとした美しい地上の情景。

 『異端児(ゼノス)』 達は様々な『夢』を『前世』を覚えている。

 そして、存在理由に等しい強烈な願望を宿している。

 「オレっちは、あの夕日が見える世界でもう一度生きたい」

「私ハ、光ノ世界デ羽ばたいて、誰モ抱きしめられないこの翼ノ代わりに・・・愛する人間二抱きしめられたい」

 日の光を浴び、人間と手を取り合うこと。それが彼等の願い。彼女等の憧れ。

 模索しているのだ。フェルズ達と『異端児(ゼノス)』達は。

 人間なら誰でも叶えられるようなちっぽけな願いを、成就させるために。

 「わかってるんだ。オレっち達は日陰者。中途半端で、人からもモンスターからも嫌われる。・・・ただ、夢だけは見ていたいんだ」

 夢を追いかけるのとは許してほしいんだと。

 リドは再び迷宮を仰ぎながら言った。

「この『隠れ里』も、ひょっとしたら母ちゃんが、オレっち達みたいな半端者のために用意してくれたんじゃないか・・・そんな風に感じる時があってよ」

「か、母ちゃん・・・?」 

「母ちゃんだよ、母ちゃん。オレっち達を産んだ」 

「つまり、迷宮(ダンジョン)です」

「だからさ・・・今日、ベルっち達と会えて嬉しかったんだ」

「協力してほしいとか、どうしてほしいとかそういえことじゃねぇんだ。ただ、オレっち達を受け入れてくれる人間がいた・・・それがめちゃくちゃ、嬉しかったんだ」

「ベルっち達に出会えて、良かったぜ」

 

 

 

「オレっち達・・・モンスターが『魔石』を食べると、どうなるか、知ってるか?」

「『強化種』・・・」

 それは   【経験値(エクセリア)】を集め能力(ステイタス)を更新する人類と相反する、モンスターの法則。

 他のモンスターの『核』を喰らうことで怪物は力を高める__まさに怪物の名に相応しい弱肉強食の理だ。ひたすらモンスターの『魔石』を喰いあさり力をつけ過ぎた個体はギルドが発令する討伐任務の対象にも成りうる。

 「オレっち達は同胞以外のモンスターを殺す。そして抜き取った『魔石』を喰らう」 

「!!」

「知ってるよな、他のモンスターはオレっち達を問答無用で襲うって。オレっち達も黙って殺されるわけにはいかない。生きるために殺す、生きるために同族を喰らう」

「だから、ためらわないでくれ。オレっち達に変に気をつかって、まよわないでくれ。同族は怖え、躊躇したらこっちがやられちまう。ベルっちが、死んじまう」

「リド、さん・・・」

「例えそいつが喋ったとしても、襲いかかってくるようなら、殺してくれ」

「絶対に死なないでくれ。また会いたい」

 

 

 

__この娘を一人にさせない。死なせない。

 今も心に刻まれているその誓いは、決して自分が守らなくても成立してしまうのだと。

「ベルッ、わたし・・・!」

 彼女の背後には、理知を宿した多くのモンスター達。

 自分の背後には、今日まで苦楽をともにしてきた家族。

 前と後ろ。大切な者達の狭間で、ベルは立ち尽くす。

 この娘の幸せ。

 そして   【ファミリア】の、みんなの、神様の__。