妖精譚

基本気まぐれ不定期でラノベなどの名言pickや解説、感想を投稿します

ダンまち外伝 ソードオラトリア 9巻 概要 解説 名言 (後半)

前半はかなり長くなってしまったので今回は書き方を少し変えようと思います、始めたばかりなので一貫性はないですが、試行錯誤しながらやっていきますので、よろしくお願いします。

 

 

 目次

 

 

3章(北の山から)

エダスの村

 

「あ・・・アイズさん」 

「調子は、どう・・・?」

「大丈夫です、今は眠っています・・・」

暖炉が焚かれた室内には、ベットで眠るヘスティア、そのすぐ側で見守っているベルがいた。アイズは疲労が溜まっているベルの調子についても尋ねたつもりなのだが、今の少年の瞳には女神しか映っていなかった。

 憧憬の存在が目の前にいるというのにベルの瞳にはヘスティアしか映っていなかった、状況からしてここでアイズが気になってデレているようではもちろんいけませんが、喧嘩がなんだったんだというような今のベルのヘスティアへの想いは美しいものだなと、改めて感じました。まぁこのあとアイズの町娘衣装を見て照れ始めるベルなのですが...

 

アイズの姿

 

(ティオナ達に、レフィーヤ・・・心配してる、かな。ロキやフィン達にも迷惑をかけちゃう・・・)

 今は派閥を挙げて闇派閥への対応に当たっている【ロキ・ファミリア】の幹部である自分がオラリオを離れるわけにはいかなかったのが・・・。

 仲間の顔を思い浮かべ、順々に謝罪を述べるアイズは、最後にハイエルフの彼女を思った。(リヴェリアには・・・怒られそう)

 都市の外ー家の外だからか、ふとそんなことを思う。

 帰宅が遅くなって母親に叱られる子供のような場違いの心境を、アイズは抱くのだった。

 アイズはなぜ自分の立場を分かっていながらヘスティアを助けに行ったのでしょうか。ただの善意か、ベルの為か、それとも【ロキ・ファミリア】の置かれている状況を天然発動して忘れてしまっていたのでしょうか・・・。

 そして今もリヴェリアのことを強く想っているようです、厳しい人ほど愛情は深いですからね。

 

 リナは気立てが良く、気配りができる娘だった。何より可愛らしい。

言葉数が少なくて表情に乏しい自分なんかよりずっと魅力的だと、頻りに話しかけてくれる彼女を前にアイズは思った。

 アイズも見た目麗しい女性ですが、強さを追い求めすぎたが故に、それ以外のものが欠けている気がします、今となってはそれすらもアイズの魅力だと自分は思います。

 

 オラリオで、迷宮で剣を振り続けていたアイズが触れることのなかった世界だ。戦うこととダンジョンのことを除いてしまえば、アイズは本当に知識も見識もないのである。いや、だからこそ小さい頃、リヴェリア達は色々なことをアイズに教えようとしてくれたのだろうが。

 ある日、リヴェリアは誘ってくれたことがある。

 一度オラリオを出て旅をしてみないか?と。

 当時のアイズは力を得ることに躍起になっていて、断ってしまったが、今なら彼女の伝えたかったことが分かるような気がした。

 リヴェリアはいつかファミリアを出て外の世界を旅するのが夢だと言っていましたね、アイズ達が力を付ければリヴェリア達も安心して子離れできますが、それは少し寂しいです。

 

理想の神様

 

「ごめんよ、ヴァレン何某君・・・色々と、迷惑をかけて」

「いえ・・・」

「あとは・・・ありがとう。ボクもベル君も、助かったよ」

 女神は真摯に謝罪と感謝をしてきた。若干熱に浮かされながら、けれど笑みを浮かべて。

 何故か会う度に注意やら警告をされているような気がするが、やはり彼女は神格者であると、アイズは思った。純朴な少年とも合わせて、いい【ファミリア】だと。

 嫌いな人物にも時と場合によっては素直に謝れて、感謝を述べられる、これぞ《永遠を生きる神》としての在るべき理想の姿ですね、まぁ永遠を生きていてこれができない神はしょうがないダメ神ですが。

 

ベル・クラネルという少年

 

 その心優しさと謙虚さは、ベルの美徳なのだろうとアイズは思う。だが一方で彼は酷く内罰的でもある。

君のせいじゃない、と昨夜も告げたが、少年は未だに自責の念に駆られていた。

「もとはといえば、僕が神様と喧嘩したから・・・あれがなかったら、神様も誘拐なんてされずに・・・」

と、そこで思ってもみなかった単語が少年の口から落ちた。

「喧嘩・・・?君と、ヘスティア様が?」

「あ。い、いえっ、喧嘩ってわけじゃないんですけどっ・・・とにかく、色々あって・・・」

 アイズが純粋に驚いていると、ベルの声は慌てふためき、最後に尻すぼみになった。

 女神に限らず、この温厚な少年が誰かと喧嘩をしている光景なんて簡単には想像できない。人の機微に疎いアイズでも、何かあったのだと察した。

 謙虚ということは、アイズとの訓練でベルが言われたように臆病ということです、ですが臆病というのは悪い意味で捉えられやすいですが、賢いことの言い換えだと僕は思います。

 そして正直者のベルはアイズにもバレてしまうくらい隠し事が下手でした、自分に嘘をつけない人は好感が持てます!逆に嘘を平気で吐く人の心理は理解しかねます...。

 

3章まとめ

3章はアイズを主観とした章でした、ベルとアイズの微笑ましいというかどこかぎこちないやりとりが見ものですかね...。印象に残ったのはやはりヘスティアの寛大さですかね、こんな神格者にも恵まれて、ベルはいい出会いをしてますね。

 

 

追憶3章(在りし日の神々と人々)

 

 当時のオラリオ

『闇派閥(イヴィルス)』を主体として抗争が絶えないオラリオの『暗黒期』、アイズが   【ロキ・ファミリア】に入団を果たしたこの時代は、闇派閥の幹部   【白髪鬼(ヴェンデッタ)】の二つ名を持つオリヴァス・アクトや、   【殺帝(ラクラニア)】の異名を持つヴァレッタ・グレーデらによって混沌の時代になっていた。

 

その頃、   【ロキ・ファミリア】は闇派閥への対応に追われていました。そこで戦力外通告を受け不満を露わにするアイズです。

 

 フィン達といる時は、特にリヴェリアといる時は、感情的になってしまうとはいえ、普段のアイズの表情は人形のそれであった。感情に乏しい顔で、変態的な神をにべもなくあしらい背を向ける。

 しかしロキは彼女の心の内を見抜いていた。

 本人も気づいていないほどの、仲間外れにされる疎外感。いじけた子供のような不満と寂しさが、その小さな背中かや滲んでいることを。

 

 神に嘘をつけない、そして神がそれらを見抜けるのは永遠とも言える年月を生きてきた豊富すぎる経験からでしょうね。

 

アイズの技

 ここまでがむしゃらにやって来て、意識したこともなかった。鍛錬の手ほどきを行うフィンとガレスも感嘆するほどの剣技・・・それが自分にはある?

 脳裏に浮かぶのは、勇ましく、憧れていた父親の姿だった。

 今のアイズと同じように、黙々と剣を振っていた一人の剣士。

 幼いアイズが夢見ていた、英雄。

 

つまり父親の姿をみて、憧れることによって彼の剣技を盗めたのでしょうね。

 

子供たちの本質

「何で・・・人同士で争っているの?」

ぽつり、と落とされたアイズの呟きに、ロキはすぐに答えなかった。

 頭の後ろで手を組みながら、青空を見上げた後、口を開く。

「神々のせいも大いにあるとは思うけど・・・これも子供達の本質かもなぁ」

「本質・・・?」

「創造と破壊、秩序と混沌。暴力っていう一面も、子供達の否定出来ない本能っちゅうことや」

アイズは黙りこくる。自分が戦おうとする動機もその一面に含まれるのではないか、根源は一緒なのではないか、そう思ったからだ。

 

 

争いで人を守り、争いで人を傷つけ、争いで優劣を付ける、これが人の本能です、この人間の本能に、そこから生まれるドラマに神々は興味を持っているのではないでしょうか、そして子供達の無限の可能性に。

 

この後は、ジャガ丸くんとガネーシャとの出会いを果たしたり、フレイヤはアイズに興味が無いことが分かったりします。

 

豊穣の女主人

「アイズたん、覚えときー。このお店、これからずっとお世話になるで。きっとなぁ」

どこか上機嫌なロキの神意が窺えず、アイズは首を傾げる。

 

これはミアとの関係性を匂わせます。

 

ミア母さん

 無愛想に答えるドワーフは、アイズから見ても貫禄があった。

 それは冒険者、実力者としてという意味だ。驚くべきことにその存在感はフィンやがレス達と同じか、それ以上だった。

つまりミアのレベルは6か7ということでしょうか。

 

 

アーニャ・フローメル

 アイズより年上の猫人。どこか親近感を覚えてしまうほど、人形のような表情で暗い目をしている。

 

あのアーニャが人形のようで暗い目?今のアーニャからは想像できませんが、何があったのでしょうか、そして何がアーニャを変えたのか、まぁ恐らく兄弟であるヴァナ・フレイヤが関わってくると予想します。

 

女主人

「・・・あのドワーフの人と、知り合いなの?」

「まぁ、な。腐れ縁、とでも言えばいいのか・・・」

「店主のミアは元冒険者なんだ。今は派閥から半脱退ということになっているけど、ちょっと前まで僕達とも色々関係があってね」

 

 

ミアはどこのファミリアに所属していたのでしょうか、恐らく【フレイヤ・ファミリア】か【ロキ・ファミリア】でしょうが、フレイヤの線が濃厚かと思われます。

 

 

「僕は、ミアの心意気は素晴らしいと思うけどね」

「・・・?」

「ミアがこの酒場を開いた理由だ。治安が悪い今のオラリオで、誰もが笑って酒を飲める場所・・・彼女はそれを作るために自分の【ファミリア】から足を洗った」

『どんなクソッタレな時代だろうと、笑って飯を食べてもらう場所』。

 

ミアは冒険者として何を見たのでしょうか、別段、冒険者を否定する素振りを見せるわけでもなく、どちらかと言えば自分の経験から助言をしたりしているので…何があったか語られるのはいつでしょうか。

 

 そして酒を飲んでしまったアイズが酔剣で暴走するなかミアの拳骨が炸裂し…。

この日、アイズには絶対に酒を飲ませてはならないという一文が【ロキ・ファミリア】の絶対条項に加わった。

 

 

4章(遺るもの、残されるもの)

「エダスの村」に守り神として祀られていたのは、古代地上に進出したモンスターの中でも最も力のある怪物の一体。当時最強派閥と謳われたゼウス・ヘラの二大派閥をも返り討ちにした『黒龍』の鱗である。

 黒龍への敗北は闇派閥を含む『悪』の台頭をも招いた。

 

モンスターは。

 ー竜の信仰が根付く村。

 アイズが知らなかった世界だ。

 知るべきではなかった、真理の側面だ。

(モンスターは、倒さないといけない・・・怪物は、化物は・・・『竜』はっ・・!)

 かき乱される感情に歯止めがかからない。

『モンスターが人々を守る』などと、そんな絶対の矛盾は受け入れられない。

『人々と共存する怪物』など在ってはならない。

 それを認めてしまえばアイズの存在理由が、掲げる剣の意志が揺らぐことになる。

 アイズの剣は、等しく怪物の墓標でなくてはならないのだから。

 今までモンスターを倒し強くなってきたアイズ、そしてモンスターに仲間やを奪われてきたアイズ、竜にも因縁がありそう?

 恐らくアイズの家族も、モンスターに命を奪われたのではないのでしょうか。

 

 漆黒の鱗を一つずつ見つけては、身動ぎせず見据え、手を握りしめる。

 その都度、剣を抜こうとする衝動を鋼の意志で抑えつけなくてはならなかった。

 たとえ黒い炎が胸を焦がそうとも、この村の人々のために看過しなくてはならない。竜の鱗が鎮座するすぐ隣で笑顔がこぼれるこの村の光景を、怪物の気配のすぐ隣で人々の生活が両立する矛盾した景色を。

 

 

 皮肉なことに竜の鱗にこの村は守られている、冒険者としての本能を抑え、モンスターに守られる小さな世界を許容したアイズ。

 

カームの過去

 カームはある女神の眷族でしたが、その女神を守れず喪ってしまった、その失意から自ら命を絶とうとここに来てしまい、救われてしまった。

 

「村の住民は私を見捨てようとしなかった。孤独に抱き締められる私の手を、引っ張ってくれた・・・」

 救われてしまったのだと。

 世界に絶望していたにもかかわらず、涙を流して閉まったのだと。

カームは穏やかな笑みで、そう告げた。

「この村の者達は、生まれてきた子供達を除けば、みな『傷』を負っています。それまで暮らしていた世界から弾き出された、絶望して、涙をからして・・・」

「ひょっとすれば、『傷』の舐め合いなのかもしれません。ですが、彼等のおかげで、思えたのです」

 「私は、『独り』ではなかったのだと」

「アイズさん・・・貴方は、私と似ているような気がする」

「まだ癒えない貴方の『傷』を、誰かが埋めてくれることを・・祈っております」

 

 

孤独者を理解できるのは孤独を味わった者のみ、アイズの傷とは一体なんなのでしょうか…。

ただ『傷』を負った者ほど強くなれると自分は思います。辛さを乗り越えた時本当の成長が待っていますから。

 

女神ヘスティア

「今の君、迷子みたいな顔してるよ。生憎、ボクはそういう子は放っておけないんだ。か、勘違いするなよっ、決して君を助けようとか思ってるんじゃないんだからな!」

 超善人、いや善神のヘスティア様。

 

 

永遠を生きる神々は必ず『別離』を約束されているから。

 ヘスティアは喪う者だ。残されてしまう者だ。

 アイズ達は、喪った者だ。残されてしまった者だ。

 その心の空白は永久の孤独にも似ている。

 待ち受ける永遠の苦痛と悲しみが怖くないかと、アイズは尋ねていた。

「・・・怖くないと言ったら、嘘になるよ。いや、寂しい、かな。下界の子供達との交流は・・・彼等との愛は、ボク達にとって一瞬だ」

「でもね、神々は意外と図々しいから、子供達との絆を永遠にしようとするんだ」

「えっ?」

「それに、君達だって誰かとの絆を永遠にすることができるんだぜ?」

「思い出してごらん、出会いから始まった沢山の思い出を。大切な誰かが君に微笑んでくれるなら、ほら、それは君の永遠の絆だ」

「そんなの・・・」

それは悲しみと痛みを伴うものだ。

「ヴァレン何某君、ボクはね、思い出は生きていると思うんだ」

「・・・?」

「君達に忘れられない思い出は幸せさ・君達の中でずっと生き続けて、寄り添うことができる。君達に、大切な何かを遺してくれている」

「!」

「君達が悲しくなってしまった時、泣きやむまで抱き締めてくれる。励まして、笑わせてあげることだって。・・・そして君達が迷ってしまった時は、大切なものを思い出させてくれる」

「逆に、忘れられた思い出は喜ぶ筈さ。ずっと悲しんでいた君達が前を向いて、誰かの隣で笑ってくれるようになったから」

 女神の微笑に、アイズは引き込まれた。

 それは神の視点であるが故の話だ。下界の者達は彼女の言うように強くなく、思い出を抱き締めることで傷付くこともある。

 だが、全てが間違っているわけではない。

 アイズの中にも、確かに__。

 今巻一番の名言だと思います。自分もこのヘスティアの言葉を聞いて感銘を受け納得してしまいました。娯楽に飢える神とは違う、下界の子等に大切なものを教える、これが本来の神の姿ではないでしょうか。

 

 

追憶4章(風が望む永遠)

ランクアップ

『アビリティ』は極めるにつれて、成長速度も落ちていく。

【ステイタス】の伸び悩みに焦るアイズ。

ここに来て、まるで全ての伸びしろを使い切ってしまったかのように変動の少ないステイタス。

 

 今までのアイズには強くなっているという実感があった。それはフィン達に叩き込まれる『技と駆け引き』も含まれるが、やはり如実だったのはステイタスの数値。

 能力値が上がれば上がるほど速く、強く動くことができ、前進しているのだと確信を得ることができた。

 しかし、今は___。

 

今までスムーズにいっていただけあって、この減速は精神的にキツいものだと思います。

 

「どうすればLv.を上げることができるの・・・?」

 【ランクアップ】。『器』の昇華。定められた心身の限界を超克し、より高次な段階へと移る唯一の儀式。

「・・・【ランクアップ】は容易く成し遂げられるものではない。段階を踏む必要がある」

「お主はいつも通り、迷宮を探索していけばいい。じれったいじゃろうが、それが近道じゃ」

「ここで焦ってはいけないよ、アイズ。じっくり、確実にやるんだ」

 ガレスも、フィンも、リヴェリアの意見に同調する。

「急いても何の意味はない。今のお前のように逸る心を抑えきれずに自滅する冒険者を、私達はこの目で何度も見てきた。だから落ち着け、アイズ」

 もちろん納得する筈がないアイズ。

 

 

何を言っているのだ。冗談じゃない。

 リヴェリア達の言葉が、アイズにはまどろっこしくてしょうがなかった。

 私は強くなりたい。強くならなければいけない。

 足踏みをしている場合など、時間などない・

 初めて直面する壁が、見えずともはっきり知覚できるその存在が、アイズの焦燥を煽っていた。それは『自分はもう前に進めないのではないか』という恐怖との表裏でもある。

 アイズはなぜこうも急いているのでしょうか。まだ幼いのにも関わらず『時間などない』という言葉の意味とは...。

 

「【ランクアップ】には上位の【経験値】が不可欠。それは『偉業』の達成・・・・『冒険』をなしえなければならないということ」 

 上位の経験値の取得はパーティで行ってもいいらしいですが、自分はこれはどうかと思っています、これが許されるなら、ベルの行った冒険こそ『偉業』です、自分だったらパーティで上位の経験値を楽に手に入れても自分が許せなくなるだけです。そしてそれが『偉業』だとも思いません。ですがそんなこと言ってたらレベルが上がりづらすぎますね。

 

最大派閥としての使命

「ギルドも無茶を言ってくれる。闇派閥どもを抑えて治安維持をこなしつつ、『遠征』で未開拓領域を開拓しろなどと」

 今のオラリオを代表する最大派閥としての使命が【ロキ・ファミリア】にはあった。本来、一人の少女に現を抜かしている暇などないほどのものが。

「ゼウス・ヘラの後釜が可及的速やかに欲しいんだろう。この混乱期を抑制するほどの・・・都市内外を安心させる権威の象徴を。そしてそれは、ゼウス達を都市から追い出した僕達の責務だ」

 彼もまた野望を追うものだ。派閥の団長としての立場と、一人の小人族としての自分との間で揺れ動き、譲歩しながら最良の着地点を探っていく。同じ悲願はあれど、彼はやはり少女より大人だった。

 ゼウス達を都市から追い出したことは前々から語られていましたが、黒竜の討伐に失敗し力が弱まっているとはいえ、少しでもオラリオに力を留めておきたいギルドが簡単に追い出しを認めるのでしょうか。都市追放というのはあんまりな気がします...。

 

アイズの英雄

あの人の剣技を見るのが、大好きだった。

 その父の剣は何かを傷付けるものだと知っている。

 容赦なく血の霧を呼ぶ剣の輝きを、怖いものだと思っていたこともある。

 だがそれは、みなを救うための剣だ。

 ひいては、母親を守る剣だ。

 それを知った時、父親は自分の誇りになった。憧れにさえも。

 少女が夢見た『英雄』。母親が愛する剣士。

 

 

前からアイズの中に出てきた『英雄』とはやはり父親の事でした。

 

 

 息付く暇もなく戦おうとするアイズを同伴していたリヴェリア達は叱りつけ、何度も親身になって「落ち着け」と言い聞かせた。彼女達はこの頃から別の下級団員とアイズを組み合わせ、パーティで迷宮攻略に当たらせるようにもなった。それが自分の暴走をとどめるための『枷』だと勘ぐってしまうアイズは、より不安定な情緒に苛まれる。

 アイズは炎が呻く声を聞いた。

 胸の中に宿る黒い炎が揺らめく音を。

 強くならなきゃ、もっと、でないと私は_。

 嫌な汗は止まらなかった。心臓が震える。立ち塞がる壁の前で棒立ちとなり、指針を失いつつある自分はここままではただの迷子になってしまう。そして足を止めてしまえば途端に現れるのは凍えるような『孤独感』だ。

 

 

 信頼を寄せつつあったリヴェリア達にも否定的な勘繰りを入れてしまい、さらに強くなれない焦りもでている、こんな状態でダンジョンに一人で行っても結果は見えていますね、ただ孤独感というのは時に最悪の結果を招きます…。

 

 何とかするしかない。自分でこの手で道を切り開くしかない。

 何故ならばアイズは助けが来ないことを知っているから。

 自分の前に、『英雄』が現れないことを、理解してしまっているから。

 必要ならばこのおぞましい黒い炎にだって焼かれよう。感情が抜け落ちるほど泣いたあの日に逆行するわけにはいかないのだ。

 

 

英雄、つまりアイズ達(?)の危機に父親は現れなかった、だから自分で守れる力が欲しいということでしょうか。

 

優男の誘惑

ギルド本部でヘルメスと出会うアイズ、ギルド職員のローズに聞いても教えてもらえなかった【ランクアップ】の方法を知りたがっていることを言い当てるヘルメス...。

 

「もしかしたら【ステイタス】が上限に至って、伸び悩んでいるとか?」

「!」

「そんな君に、誰も【ランクアップ】の方法を教えてくれない・・・とか?」

内情を言い当ててくる言葉にアイズは呆然とするのみだった。 

「やはり、そうか・・・君がゼウスの言っていた__」

「【ランクアップ】の方法、オレが教えてあげようか?」

「!?」

「そんなに警戒しないでほしい。子を導くのは神の役目って、相場は決まっているだろう?」

「本当に教えてくれるのっ?」

「オレが司る事物にかけて、嘘をつかないことを約束しよう」

 

リヴェリア達の懸念も知らずに教えちゃうヘルメス、彼の司るものは幸運と富、悪くは聞こえませんが...そして「ゼウスの言っていた」というのが気になります......ゼウスは未来予知でもできるのでしょうか...。

 

代理母の気持ち

 

ヘルメスに聞いて迷宮へ向かい、上層の階層主とも言われている『インファント・ドラゴン』と戦いボロボロになって帰ってきたアイズ、リヴェリアに回復役をくれと懇願し諍いへと発展するアイズとリヴェリア...。

 

「リヴェリア達は、教えてくれなかった!黙ってた!ランクアップの方法!」

「!!」

「『偉業』の条件を誤魔化してた!!」

「私の願いを、知っているくせに!」

 アイズの感情は止まらなかった。

 今、自分が口にしている言葉が建前であると理解しながら、目の前にいるリヴェリアを責めるのを止められなかった。

 アイズは自分が強くなっていたと思っていた。リヴェリア達の教えを守り、見守られながら、ちゃんと大きくなっていると。彼女達に認められるようになったと、そう思っていた。

 しかし、違った。

 リヴェリア達はアイズのことを、アイズの強さを信じてくれなかった。危険だと判断されて誤魔化されていた。

 【ランクアップ】の条件が別のものであったなら、きっとこうまで心をかき乱されなかった。

 『強さ』は今のアイズのすべてなのに、それを信じてもらえなかったら戦姫に存在価値などない。拠り所など何もない。リヴェリアたちの善意がアイズの全てを突き放している。

 何をこんなにも傷付いているのか、アイズにもわからなかった。

 ただ確かなことは、彼女達に認められていないという事実が、心に亀裂を刻んだということだ。

 

 強さだけを求めてここまできたアイズにとっては自分のしてきた事を否定されたように感じたでしょう、リヴェリア達はアイズの身を案じて隠していましたが、アイズの気持ちもわかります。

 

 

「私は、貴方の『人形』じゃない!」

 次の瞬間__ぱんっ!と。

 頬から、激しい音が鳴った。

 その拍子に握り締めていた剣を地面に取り落とす。

 呆然とするアイズは、熱を帯びる頬が叩かれたのだと理解した。

 視線を前に向けると雨に濡れるリヴェリアが今まで見たことのない表情で、アイズのことを睨んでいた。

「私の気持ちもしらないで、よくも・・・!」

怒っているような、悲しんでいるような、苦しんでいるような。

 雨に打たれ頬を伝うその滴が、アイズには涙のように見えてしまった。

「私がお前を想うことは間違っているのか!?私がっ、私達がお前のことを心配していると何故分かってくれない!」

 それは彼女が初めて吐き出す激情だった。アイズに負けないほどの感情の塊。

 アイズの覚悟が揺らぐ。どんな犠牲を払っても、自分を殺そうとも、果たそうとしていた悲願への決意が。

 翡翠の瞳に真っ直ぐ見つめられる金の瞳が怯み、歪んだ。

「私達は・・・家族(ファミリア)だ」

 アイズはうろたえてしまった。

 その眼差しに、その訴えに。

 ___そして怒りを抱いてしまった。

 愚かな自分に対して。

 父親と母親を思い出に変え、過去を捨てて、『今』に飛びつこうとした弱い少女に。

 

 どんな手を使ってでも強くなるのがアイズの悲願、それなら【ロキ・ファミリア】として、家族として少女を迎え入れたリヴェリア達にとって真逆の想いです。

 本当の、アイズの過去にいた家族しか自分の拠り所はないと考えていたのでしょうか、だからリヴェリア達の想いを受け止められなかった、けれど本当のアイズは受け止めていた、だからリヴェリアの頬を伝う雨の滴が涙に見えてしまったのだと思います。

 

「アイズ、私はお前のことを___」

「止めてっ!」

「違うっ、貴方は違うッ!変なこと言わないでっ、私を惑わさないでっ!」

 アイズは拒み、あがいた。脳裏に蘇るリヴェリアとの様々な思い出に背を向け、黒い炎に包まれる己の使命のもとへ逃げ込む。

「貴方は・・・じゃない」

「貴方は私のお母さんじゃない!」

 その拒絶を叩きつけた瞬間、時間が止まったかのように、二人の世界から全ての音が遠ざかった。

 何故か、言葉を口にした筈のアイズが傷付いていた。

 立ち尽くすリヴェリアのその顔を見た時、何故か、途方もない後悔が生まれた。

 

 

 リヴェリア達を家族のような存在と認識すること=強くなれなくなる、弱くなる、などといった認識なのではないでしょうか。

 黒い炎とはアイズの悲願、アイズの気持ちはよく分かります、人と馴れ合ってるようじゃ成長できない、1人で黙々と励む方が効率的だと。

 今のアイズの場合、強くなるために必要な存在として認識しているため1人でというのは違いますが。

 

「そうだ・・・私は、お前の母親ではない」

「お前の母親など、いない」

 何も変わらない。何も変わってない。

 自分が独りぼっちだったなんてこと、ずっと前から知っている。

 アイズの愛した人達は自分を置いてきえてしまったあ。あの幸福な日々は今や昔日という名の過去の残り滓に成り下がり、思い出の破片となってアイズを傷付ける。

 永遠なんてない。全て一瞬だ。代わりに続くこの永遠の痛みは何ものにも埋められない。ロキ達にも、リヴェリアにも。

 そうだ、アイズは独りだ。

 これまでも、これからも、ずっと。

 『人形』と貶められ、静止の声も聞かず怪物を殺し続ける。誰からも愛されないし、誰からも理解されない。

 そう分かっていた筈なのに、涙はもう枯れた筈なのに、瞳を濡らすこの感情が消えてくれない。

 

 

 幸せは失った時が怖い、消えない傷になって残るから、だから幸せを求めないのも一つの生き方なのかもしれません、ただそんな人生に価値はあるでしょうか。

 ヘスティアが言ったように、幸せは思い出として永遠に残るのです、今のアイズは過去をも否定していますがこれは間違いです、この傷を癒すのは容易いことではないですが…。

 

 

「フィン、ガレス・・・私はどうすればいい?」

 決して他者に決断を委ねることのない、リヴェリアの弱音。

 少女と言葉の刃で傷付け合った自分自身を持てあまし、後悔と苦悩を吐き出す。

 ともに戦い続けてきた異種族の戦友達は、彼女のその横顔を見ただけで全て察したように、口を噤んだ。

「しっかりせんか、馬鹿たれがァ!!」

「お主等エルフは考え過ぎじゃと大昔に言ってやったじゃろうが!前よりマシになったと思っておったが、何も変わっておらん!」

「なんだと・・・!?」

「教師や親を気取るなら、もっとどっしり構えておれ!」

ドワーフの貴様に何が分かる・・・!私だって迷いながら・・・!」

「お前なんぞより、今のあの娘の方がよっぽど迷子じゃ!」

「どうせお前はアイズを怖がっておったのじゃろう!傷付けぬようにと言葉を選び、もっともらしい建前を並べて自分の本音を語らなかった!」

「上辺ばかりのエルフの言葉など届くものか!迷って口が回らないというのなら、引き寄せて抱き締めてやれ!」

  もし自分がこの世界に存在するとしたら確実にエルフでしたね、めちゃくちゃ考えすぎる性格なので...。

 なので、このガレスの言葉も正しいことはわかるんですが、いまいち納得できずにいる自分です。

 

「リヴェリア、アイズをもう一度探そう。君がいないと何も始まらない」

「・・・しかし、あの娘に拒絶された今の私に、そんな資格など・・・」

「リヴェリア」

「資格なんて馬鹿なことを言っているな。これまでアイズとともに過ごしてきた君自身を侮辱する発言だ。それとも、今日までの時間は全て嘘だったのか?」

今度こそリヴェリアはうなだれた。

 

今のリヴェリアの心情はとても理解できます、とても悔しいです。

 リヴェリアは恐らくプライドがかなり高いのでこれがフィン達でなければどうなっていたか分かりません、ですがフィン達だからこそその言葉が彼女にとどくのでしょう。

ですが半ば強制でアイズの面倒を見ることになってここまで言われるのはカチンと来てるのではないでしょうか(笑)

 

「___ちぃーっと渋くなってきたと思っとったけど、自分ら、やっぱり変わっとらんなぁ」

 そこへ、言い合う声を聞きつけてか、彼女達の主神が新たにやって来る。

「リヴェリア、顔を上げぇ」

「今のアイズに必要なのは、僕達の声じゃない」

「一番近く、長く寄り添っておった、お主の手じゃ」

 ロキに促され、フィンに断じられ、ガレスに論される。

「家出娘を迎えにいくのは、ママと相場は決まっとるでー」

リヴェリアは反論しようとして、失敗してしまい、ふっと脱力した笑みを浮かべた。

 

その頃アイズは

 激情のままにダンジョンで怪物どもを屠っていたアイズ、いつのまにか上層最下層の12階層まで来ていました。

 

 

 __強くなりたい。どんなものよりも強くなりたい。他には何も要らない。

 __怖い。寂しい。寒い。ずっと独り。私にはやっぱり何も残っていない。それが悲しい。

 相反する二つの声がせめぎ合っている。どちらのアイズもアイズだった。じっとしていると再び目頭が熱くなってくる。

 

 タナトスの誘惑

 ダンジョンで死神 タナトスに声を掛けられるアイズですが...。

 

「モンスターが憎いか、娘よ?」

「!」

「そして、己の弱さを許せない・・・弱いままでいるお前を許す世界が、心を迷わせる・・・」

 アイズは動揺した。

 妖艶な微笑とともに突き出される神の言葉が、心の内を抉る。

「不自由を感じている、葛藤している、掻き毟りたいほどの衝動を抱いている。お前は力を求める復讐の使徒・・・強さに飢える生粋の剣士だ。その心は一向に癒されない。・・・内に秘めた黒い劫火を抑え込む術を、知らない」

 淀みなくアイズの心象を言い当てていく。

「お前は誰からも理解されない・・・お前は、独りだ。」

「憎いだろう?悲しいだろう?不安だろう?」

「私が、全ての苦しみから解放してやろうか?」

「娘よ、お前は美しい。死に見初められながら戦い続けるお前を、私は愛おしく思う。救ってやりたい、とも」

「力を与えてやる。強くなる術を、願いを必ずや成熟させる居場所を。それは迷いを抱かずに済む場所、お前が望む剣と炎の世界だ」

 低迷する現状を抜け出す方法を、飽くなき闘争の舞台を、この苦しみから逃れる救いを与えんと。

 

 的確にアイズの心を穿つ誘惑、ですが、タナトスの司る事物は『死』、今生きている子供達を死なせ、新たに再誕させるのが目的なハズ、つまりアイズを死なせようと...。

 

 

それは甘美の響きをもってアイズの心を震わせた。燃え盛る黒い炎が歓喜する。

 不自由な【ロキ・ファミリア】の環境を捨てて、先へ進むことを願っている。

 孤独という名の苦痛から解放され、力だけを求めろと、訴えている。

「その瞳の炎に身を委ねてしまえ。さすれば世界は景色を変え、お前を祝福するだろう」

 神の祝詞が子供の心を惑わす。

 それは天の救済であり破滅への道標であった。己のために多くの『死』を振りまく、殺戮者を生むための呪われた儀式。

 その瞳が見出した『死の剣士』の雛鳥に、死神は目を見開き、手を差し出した。

 アイズは、その美しい神の手を見た。

 あらゆる苦しみから解放される救済の象徴を。

 もう何も考えずに力だけを追い求められる修羅の道を。

 願ってやまなかった筈の世界の入り口を。

  不自由、ですがそこでしか手に入らないものがあった筈。

 そして、アイズが黒い炎に身を委ねてしまえば、待っているのは『死』。

 

 私はずっと独り。変えられないというのならもう何も感じたくない。いかなる俗事にも苛まれず、ただ力を貪る餓姫になりたい。黒い炎に焼かれる心と、火傷するほどの熱を帯びる背中がアイズを突き動かす。

 やがて少女の手が微動し、握り締めた剣の鞘から離れようとする。

  黒い炎に巻かれ、衝動の言いなりになろうとした___その時だった。

 一人のハイエルフの眼差しが、アイズの心に過ったのは。

(___)

 最後の別れ際、アイズと同じように苦しみに歪んでいた彼女の相貌。

 彼女との今までが、アイズを見守ってくれた者達との思い出が心の奥に去来する。

 愛剣が輝きを放ち、何かを呼びかけるようにアイズの瞳を照らした。

 どうしてそんなことを思ったのかわからない。

 何故、剣から手が離れないのかわからない。

 だがアイズは、今日までの過去を否定することが、どうしてもできなかった。

黒い炎に代わる、空を翔る風のような、リヴェリア達との激しくも優しい日々を。

 

 アイズとリヴェリア達の今までは、偽りではなかったことが証明されました。

 考えてわかることより、感覚でわかることのほうが自分の真意ってことですね。

 

「・・・私は、力が欲しい」

 タナトスの瞳を見上げる金の瞳は、黒い炎を退け、剣のごとき輝きを取り戻した。

「でも、貴方に付いていくのは・・・違う!」

 強い意志で、神の誘惑を退ける。

「独りになっても、あの人達を裏切るのは、間違ってる!!」

 思いを叫びに変えたアイズは目の前の神を睨んだ。

 アイズが真っ黒にならなくて本当によかった。

 

テンペスト

 

 アイズの勧誘に失敗したタナトスは、ダンジョンで神威を解き放ち、神の存在に気付いたダンジョンは、上層に出現する筈のない怪物『ワイヴァーン』を産み落とします。

 

 竜との死闘、アイズはロキやフィン達を驚嘆させてきた少女の剣技__記憶に在る父親の絶技。『技』を持って迎え撃ちます。

 しかし、圧倒的なポテンシャルの差がアイズを危機へ追い込みます。

 

 

結局、何も変えられないまま。

 何も得られないまま。

 アイズは独りぼっち、炎に焼かれて、死ぬ。

 なんて愚かな末路だ。なんてあっけない終焉だ。なんて悲しい、最後だ。

 心の声が溶け合う中、アイズは顔を上げた。

立ち上がれないアイズは心を真っ白にしながら、光り輝く炎に飲み込まれようとした。

 

「アイズ!」

 その時だった。

 爆発音とともに広間の出入り口の一角が吹き飛び、自分の名を呼ぶ声が聞こえたのは。

「____」

 アイズはそのハイエルフ、リヴェリアを認めた瞬間、時を止めた。

 それまでの絶望とは異なる、わけのわからない感情が刹那の内に駆け巡る。闇の中に蹲る少女を照らす光が、胸に迫る翡翠の輝きが。

 

 

「アイズ!言えっ、呼ぶんだ!!」

「『目覚めよ(テンペスト)』と!」

「【目覚めよ(テンペスト)】!!」

 次の瞬間。

 アイズの中に在った『魔法』が解き放たれた。

「ぁ___」

 自分の体を包み、舞い踊る『風』に、アイズはこれがどういうものなのか説明されずとも理解した。

「お母さんの・・・風」

 幼いアイズがいつも目にしてきた風だ。

「・・・ずっと・・・一緒に・・・!」

 片時も離れず側にいてくれた、『精霊の風』だ。

 力が溢れてくる。

 涙と一緒に、打ち震えるほどの想いの力が。

 

「【母の風よ(エアリエル)】!!」

 風砕。

 

風の力をもってして冒険を冒すアイズ。

 

風に撫でられる両手を見下ろして、風の唇を添えられる肩を抱いて、アイズは止まらない涙を流した。

 自分には何も残っていないと思っていた。

 ずっと独りだと思い込んでいた。

 永遠の痛みと苦しみを抱えていくのだと決めつけていた。

 けれど、違った。

 『母』の息吹は、彼女との絆はちゃんと残っていた。

 他ならないアイズの中に宿り、ずっと寄り添っていてくれていた。

 足もとの剣もきらめきを放ち、わからなかったことを教えてくれる。

 父親の剣技はアイズの中で生きている。

 母親の『風』はアイズとともに在る。

「ぅ、あああああああああぁ・・・!」

私は。

私は。

私は、独りじゃなかった。

 

これで本当の家族との繋がりも感じることができたので、残るは...。

 

アイズの家族(ファミリア)

 

「アイズ・・・」

 抑えきれない嗚咽を漏らしながら振り向くと、リヴェリアが目の前で立ち止まった。

 その眼差しは、今アイズが気付いたことをずっと訴えていた。

 お前は独りではないと。

 傷だらけのアイズを前に後悔に濡れ、潤んでいる翡翠色の瞳は、隠していた慈愛をさらけ出した。

「アイズ、私はお前の母親にはなれない・・・でも、お前の側にいたいんだ」

 彼女の瞳から滴がこぼれ落ちる。

「お前を、愛したいんだ」

 リヴェリアに重なる母の面影を、アイズは今度は拒まなかった。

 頭と背にそっと手を回され、抱き締められる・

 添えられた手の温もりが、アイズの目から更なる涙を呼んだ。

「リヴェリアッ、リヴェリアァ・・・!ごっ、ごめっ・・・ごめんなさっ・・・!」

「ああ、いい、いいさ・・・大丈夫だ・・・」

 あふれる涙が邪魔をし、謝罪の形にならないアイズの声に、上手く喋れないリヴェリアは涙ながらに微笑んだ。

 

 焼け焦げた大地の中で、二つの影が重なる。

 少女の涙声はどこまでも響いた。いつまでも妖精の耳を震わし、彼女の想いを誘った。

 残っている少女の魔法が穏やかな風を生み、二人の体に寄り添う。

 笑うように、安心するように、母と子を包み込んだ。

 

 アイズもやっと家族(ファミリア)としてやっていけそうですね。

 

 この後ヘスティアとベルの感動的なやりとりがありますが、ダンまち本編を書くときに紹介しようかなと、だから今回は割愛。

 

エピローグ(風が望んだ今)

さよなら

『ベオル山地』に遭難してから五日目、リナを始め村人達は口々に感謝の言葉を伝えてきた。

「アイズさんも、また・・・!」

「はい・・・また」

 手を取って涙ぐむリナに、アイズは小さく微笑みかける。

(さぁ、帰ろう___)

 みんなの場所へ。

 私を『愛したい』と言ってくれた、彼女のもとへ。

 都市を離れ、外の世界をちょっとだけ旅した今、無性に伝えたい言葉があるから。

 

おかえり

「心配かい、アイズのことが?」

「・・・アイズももう子供ではない。心配するだけ無駄だ。」

「その割には、先程から物思いに耽っとるようじゃがな」

「・・・たまに酷く不安になる時がある。未だに消えていないアイズの黒炎は、ふとした拍子にあの娘自信を飲み込むのではないかと。あの娘を遠くに連れていってしまわないか、と」

 

「アイズさ~んっ!心配しましたっ、良かったぁ~!」

「あ~ぁ、アイズ泣かせたぁ~」

「レフィーヤ、あんたがいなくなってずっと不安そうだったのよ?」

「ごめんね・・・レフィーヤ」

「けっ、心配する必要なんてこれっぽっちもねぇだろうが」

「ベートだって尻尾ずっとソワソワさせてたくせに~」

「してねぇっての!!でまかせ言ってんじゃねぇ、馬鹿アマゾネス!」

「なんだとぉー!?」

 

 

嬉しげな声と温かなその光景に、リヴェリアは目を細めた。

 小さく、ボロボロで、独りだった少女はもうどこにもいない。

 帰ってくる居場所を見つけ、笑みを浮かべるようになった娘がいる。

 それが心を安心させ、幸福といった名の愛おしさを抱かせた。

 やがて、こちらに気付いた少女が歩み寄ってくる。

 まるでお叱りを待つ子供のように上目遣いで窺っていたアイズは、リヴェリアの浮かべている微笑を見て、笑みを纏い直した。

 

「ただいま・・・リヴェリア」

「ああ。おかえり、アイズ」

 お互いの顔が綻ぶ。

 ほのかに揺れる金の髪と翡翠の髪。

 笑い合う二人の間に風が流れ、微笑んでいった。

 

最後に...。

 今巻はアイズの過去編とダンまち本編の8巻に当たるアイズ視点のお話でした。

アイズの全てが明かされたわけではないですが、生い立ちを知ることができました。

 ブログのほうは1巻を前編と後編に分けたにも関わらずかなりも文字数。疲れました。

 ふと思いましたが、名言集として出すほうがいいでしょうか。解説は在っていらないきもしていました。

 今度ともよろしくお願いします。